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更生保護女性会のほっとけない運動 推進の手引き

1.「ほっとけない運動」とは

「たくさんの家出少女がケータイの出会いサイトで知り合った見知らぬ男性を頼り、性犯罪の被害にあっている」「居場所がない多くの老人が、助けを求めるように万引きを繰り返している」 「薬物乱用をやめられない家族のために崩壊の危機にありながら、だれにも相談できずに孤立して苦しむ家庭が数多くある」。

こういったニュースを聞いた時、あなたは、更生保護女性会員としてどう感じるでしょうか。

これらの例のように、更生保護と犯罪予防の観点から地域の中の諸問題を見たときに、「これはほっとけない」という思いになることがあります。そのことについて、会員同士が話し合い、問題として声をあげ、「ほっておかない」対象として解決に向けて取り組んでいく。それが、この「ほっとけない運動」です。

Q1 従来の活動とどう違うのですか?

「ほっとけない運動」は、「ほっとけない」問題に「ほっとかない」で取り組むという運動ですから、決して特別な新しい考え方に基づくものではありません。次のことがらを特に意識し、そして強調して行うことにこの運動の意義があると考えています。


@「ほっとけない」と感じる問題から出発する活動です

私たちのこれまでの活動は、往々にして、「何年も続けているから行う」「依頼があったから行う」「モデル地区に指定されたから行う」「みんなでできることであるから行う」「会員が関心をもったから行う」「会員に特技を持つ人がいるから行う」「それが更女の活動だから行う」「まず何かやってみようと行う」という風ではなかったでしょうか。要するに必ずしも取り組む問題の大きさ、深刻さ、活動の必要性ということが出発点になっているのではないことが多かったのではないかということです。

毎年の事業計画を決める時にも、今何が取り組むべき課題として面前にあるのかということを新しく考えてみるということをしないで、前年度の事業をほぼ踏襲する形で決めていることが、少なくなかったのではないでしょうか。

これに対して、「ほっとけない運動」では、その時々に地域が当面している問題が何かということを、よく洗い出すことから始めます。そして、その問題を解決するという明確な目的意識をもって、具体的な活動を検討していきます。このように、問題を虚心にとらえ、取り組む必要性をよく吟味し、解決に向けて取り組んでいくところに「ほっとけない運動」の大きな意味があります。ボランティア団体としては、その成り立った最初のところに戻る形になるともとらえられ、その意味では原点回帰の運動であると考えています。

A「ほっとかない」すなわち問題の改善を追い求める運動です

「ほっとけない」と声をあげることは、その問題を「ほっとかない」ということでもあります。「ほっとけない」と言うだけで終わることはありません。
それでは「ほっとかない」ということは、どこまで関与することを意味しているのでしょうか。
何かただ一つの活動を行って終わったとしても、また、その「ほっとけない」問題が解決するまで関わる取組みでもどちらも「ほっとかない」関わり方をしたことにはなります。しかし、私たちは、活動が自己満足に終わるのではなく、問題の解決を指向し、改善を求めて継続して取り組むことこそ「ほっとかない」ことであり、この運動で大切なことであると考えています。
例えば、市内で万引が多発している問題を「ほっとけない」として、活動に取り組んだとしましょう。そしてある会では、万引防止の啓発活動を、一度だけ商店街で行いました。しかし、ただ一度の啓発活動だけで万引問題は改善しませんから、それだけで終わってしまうのでは、部分的に「ほっとかなかった」だけの活動ということになります。私たちの活動は、更生保護女性会だけで行うことが多かったこともあり、このような限られた範囲での活動に終わることが多かったのではないでしょうか。けれども「ほっとけない運動」では、最終的には、ある地域の問題を最後までほっとかずに解決しようとして進めていきますので、一つの活動をしたあとにも次の展開が検討されます。それは、活動を計画し、実行し、結果を検証し、そして次の行動の計画へと進む、plan、 do、 seeの繰り返しになるということです。そして、その経過の中では、更生保護女性会だけでは足りず、問題解決に必要な団体の参加をも次々に求めていくことになってくるはずです。問題を「ほっとかない」ということは、その問題が解決されるかどうかの観点から評価される ことですから、多くの場合、更生保護女性会だけでできることをやって終わり、ということにはならないのです。
事情や考えがあって、更生保護女性会としてはある時点でその問題からとりあえず離れるということはあり得ると思いますが、基本的にはこの問題を解決するまで行うという目的指向性がこの運動の必要な要素と考えています。

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Q2 更生保護女性会の活動は、すべて「ほっとけない運動」の活動と呼べるのではないですか?

私たちは「ほっとけない運動」の活動であるかどうかは、基本的には、その活動に取り組む意識の有無によって区別されるのだと考えています。「ほっとけない運動」では、活動を行う時に「ほっとけない」問題がどこにどういう形で存在していて、その解決のために活動を行っているのだということを意識しているということが大切なのです。

そして「ほっとけない運動」の活動は、さらに後述する一定の手順(「気づく」「検証し選択する」「外に訴える」「改善の活動を進める」という各段階)を踏んでいることが大切であると考えています。そのことによって、その活動が、単に「ほっとけない」を謳っただけで運動の特色を帯びないものになってしまうということにならないようにと考えています。

そして、のちに述べるように「ほっとけない運動」は、一つの活動のあり方ですから、この手順を踏まない、すなわち「ほっとけない運動」としては行わない更女活動も現にあり、そしてあってよいのだと考えています。

Q3 取り上げる問題に一定の範囲はあるのですか?

「ほっとけない」問題の対象は、更生保護と犯罪予防に関することに限ります。例えば、地域の中で「ほっとけない」問題には、どのようなことがあるかと考えてみると、環境問題、伝統文化の継承、景観保持などに関連して、人々の行動、社会のあり方に疑問を感じる場合があるかもしれません。けれども、この運動では、更生保護女性会が提唱する運動として一定の枠を設けることとし、その問題が更生保護と犯罪予防につながる意味合いを持たない限り、それらをこの運動の対象として扱うことはありません。

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Q4 更生保護女性会の活動は、すべて「ほっとけない運動」の考え方で進めなくてはならないと考えるのですか?

そうではありません。任意に組織されたボランティア団体である更生保護女性会には、いろいろな活動のあり方があってよいと思います。
ある会では、年1回手作りのおもちゃを持って地元にある児童養護施設を訪問し、子どもたちと交流する活動を長く続けています。その子たちにもっと必要なことがあるかも知れないと感じることはあっても、ひとときを共に過ごし、子どもたちが喜ぶ顔を見ることで、会員たちは満足し、それを続けてきたことがよかったと思っています。この活動に関しそれ以上に発展させることまでは、物理的にできそうもないし、考えていません。会のメンバーは、それでよいと決め、数多い活動の一つとして続けていく方針です。そして、このようなあり方に、外部から批判や意見を差し挟む余地は全くないと思います。

一方、「ほっとけない運動」の中では、この児童養護施設の例で考えると、その施設の子どもたちの生活を施設の職員と話し合ってよく検討し、「ほっとけない」問題がみつかれば、その解決に焦点をあてて活動を組み立てていくというやり方をとります。そして、一つの活動を行っては、足りないところを検討し、徐々に活動を進化させて子どもたちのニーズを満たしていこうとします。

このような「ほっとけない」問題を見いだした時に、「ほっておかない」意識をもって課題解決のために継続的に取り組むというあり方は、更生保護女性会が組織として成熟し、取り組む活動が増えるにつれてむしろ少なくなったのかもしれません。問題の解決を意図するのであれば、更生保護女性会だけではできないことがほとんどであるということもその理由の一つであったでしょう。ただ、このような取り組み方も、更生保護女性会の一つのあり方として必要なことだと私たちは思います(注)。

特定の到達目標を掲げて運動をしているボランティア団体はたくさんあります。更生保護女性会も目標を決めて、他団体に呼びかけ問題にがっぷりと取り組むということがあってもよいはずです。更生保護女性会のいろいろな活動のあり方の一つとして「ほっとけない運動」があるのだと思っています。
(注)平成19年3月9日の更女活動を考える有識者の会「更生保護女性会の活動について考える(提言)」の「3 更生保護女性会の力」では、「更女活動の特長」の一つとして次のことがあげられています。 「ウ 生活圏を中心に活動する地域密着型ボランティアと特定の活動目的を中心に活動する課題解決型ボランティアの両方の型を兼ね備えた組織モデルを目指して行動する」 「ほっとけない運動」の考える活動は、このうちの課題解決型ボランティアであり、さらに課題それ自体からじっくりと検討するということを提唱するものです。

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Q5 ボランティアである更生保護女性会が、そこまで問題をつきつめて考え、取り組む必要があるのですか?

「ほっとけない運動」で取り組まれている活動が紹介されると、時に会場から大きなため息が漏れます。とてもそこまでは自分の会ではできないという感想であったようです。そして、次のような声も聞かれます。

「更生保護女性会はボランティアなのだからそこまでやらなくてもいいのよ」
「和気藹々に活動をしていくことが大切」
「それは保護司会がやることじゃないの?」
「それを進める管轄の役所があるはずよ」

これらの感想は、現段階でのその更生保護女性会の活動や意識と「ほっとけない運動」で取り組もうとしていることとのギャップをよく示していると思います。

私たちは、「ほっとけない運動」を進めるに当たり、多様な活動の在り方の一つとして、ボランティア活動の本来の姿とも言える「自発的に問題を見つけ対処する」という形を生かした活動の取組みを更生保護女性会の中に定着させたいと考えています。ただ、各地区更生保護女性会の状況を、会員の構成や考え方、会の雰囲気、既存の活動の質と量などの点から考えると、一律一斉に「ほっとけない運動」の活動に取り組んでもらうことはむずかしいだろうと思っています。徐々に運動の趣旨を理解していただき、活動に生かしていただければと考えているところです。多様な活動のあり方を持つことによって、より幅広い立場や世代の女性の共感を得て会員を増やすとともに、他団体とのネットワークも広がっていくものと思います。

また、「ほっとけない運動」の活動は、目的意識を持って比較的長い期間、継続して行う必要はありますが、その内容は必ずしもむずかしいものではありません。私たちでもできるのではないだろうかと、あとのページで紹介するようないろいろな例を参考にして考えていただきたいと思います。

さらに、他の地区が行っている「ほっとけない運動」の趣旨に賛同し、同じ「ほっとけない」問題に取り組んでいくという方法もあります。以下は、その例です。一つの更生保護女性会だけで問題に取り組むのではなく、「ほっとけない」問題が共通であれば、会同士で連絡を取り合い、又は一緒に行動するということがむしろ大切であると思います。

他の更生保護女性会と合同で活動に取り組んだ例
  • かすみがうら市更生保護女性会は、土浦市更生保護女性会が「ほっとけない運動」として行う「青少年を考える会」に途中から参加、家族支援を担う意味で「『非行』と向き合う親たちの会」の設立・運営の支援を開始した。
  • 県北の各更生保護女性会は、更生保護施設被保護者の自立支援を「ほっとけない運動」として進めるひたちなか市更生保護女性の会の呼びかけに呼応して、その連絡会である「びおらの会」に参加し、必要な活動の検討と連携しての活動を進めている。
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Q6「ほっとけない運動」で行う活動は、何かこれまでに行っていない新しい活動でなければなりませんか?

Q2で述べたように「ほっとけない運動」の活動であるかどうかは、基本的には、その活動に取り組む意識の有無によって区別されます。したがって「ほっとけない運動」で行う活動は、必ずしも何か新しい分野での活動である必要はありません。次の例のように、これまで行ってきた活動であっても「ほっとけない運動」の視点から見直しを行うことによって、この運動の活動と位置付けることができるものと考えています。

ひたちなか市更生保護女性の会は、長年地元の更生保護施設有光苑を訪問し、誕生会や夕食会、スポーツ大会などにより苑生に対する支援活動を行ってきたが「ほっとけない運動」に取り組むことを機会に従来の支援のあり方を見直した。施設長の話を聞くなどして、入所者の大半が自立更生の意欲がなく無気力であること、就職もできず退苑後は再犯する者も多いとのことなどを聞き「ほっとけない」と感じた。そこで、在所中の苑生の生活を潤すというよりは、自立後の生活の安定のために何ができるかを検討することこそが大切であると考え、有光苑苑生自立支援連絡会「びおら」を立ち上げた。この連絡会をとおして、苑生が退所後に自立した生活を送り、再犯をしないでいられるような支援をしていきたいとしている。

さらに「ほっとけない運動」は、格別の考えや方法に基づく活動を行うものではありませんから「青少年に有害な図書が売られていることをほっておけず、関係機関と連絡をとって販売を制限してもらった」などの活動のように、これまでの活動の中でも「ほっとけない運動」の活動の流れがそのまま見受けられる活動は、数多くあると思います。


2 運動展開の流れ

運動の流れは「問題に気づく」「問題を検証し選択する」「問題として外に訴える」「問題改善の活動を進める」という各段階を設定することができます。4つ目のステップの「問題改善の活動を進める」ということを急がず、各ステップでの検討と準備が重要です。例えば問題の全体をつかまないままに活動を決めてしまい、その活動を行うこと自体が目的となってしまって、問題を改善するという目的意識が薄くなることがないように注意が必要です。むしろ、活動の前段階の各ステップを大切にして、じっくりと問題についての情報を集め、関係者と話し合い、その上で具体的な活動を決めるという進め方がよいと思います。
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(1)ステップ1 問題に気づく

会員が、いろいろな人の体験や意見を聞いたり、日常生活の中での体験をとおしたりして問題に気づくという段階です。活動が生まれるための第一歩となります。具体的には、路上の隅で喫煙をしている高校生を見たという情報を会員同士がつき合わせるうちに、その地域で、高校生の喫煙の問題が広がっているのではないかということに気づく、児童福祉施設の職員を講師に招いて研修を行った中で、虐待を受けた子どもの心の回復のために、地域の支援が必要とされていることに気づく、報道により、万引きで検挙される高齢者が増加していることに気づく、などということです。

これまでの会員研修会で「何がほっとけないか」という話し合いでは、列車内での生徒のマナーなど、日常場面でも触れることのある問題が話題にあげられることが多いようでした。けれども、気をつけなければいけないのは、日常生活の出来事だけから探すのでは制約が大きく、「気づく」ためにも工夫が必要であるということです。

私たちは、更生保護女性会の活動をしているといっても、例えば万引きなどの犯罪の現場に立ち会うなどということは滅多にありません。更生保護と犯罪予防に関することは、日常生活の場ではかくれていて見えないことがほとんどなのです(注)。すなわち、目に触れにくい問題に目をやり、明確化することが、この運動では特に重要です。そのためには、日常の活動の中で、次のアからウにあげるような意識的な努力をすることが必要です。

(注)かつて社会の治安が悪くなったと述べている人の多くが、自分の地域の治安は悪くないと感じているという調査結果がありましたが、それもこのことの現れだと思います。

ア 報道から問題に気づく

テレビの報道番組、新聞報道などで問題に気づくということです。後に細かな点を確認したり、他の会員と情報を共有したりするために、番組を録画したり、新聞の記事を切り抜くなどしておくことが大切です。

この運動を始めて、県内あちらこちらの会員がスクラップブックを会合に持参するようになっています。厚く蓄積された記事の束を、活動の「財産」として大切にしています。

イ 更女の活動の中から気づく

問題に気づくことが、更生保護女性会の行う「あいさつ運動」の中で見聞きしたことであったり、「ミニ集会」の参加者の発言であったり、「子どもの居場所づくり」の活動であったり、「生徒たちとの話し合い」の場であったりということがよくあります。ミニ集会などの活動自体が、地域の問題を知るための機会となっているのです。

一方で、同じミニ集会であっても、例えばひったくりが多発している状況にどう対応していこうか話し合うなど、一定の問題意識があり、問題解決に向けて取り組む意図を持って開催する場合もあると思います。このように考えると、更生保護女性会の地域活動は、気づくきっかけになる活動と、問題に取り組むための活動とに分けて考えることができるのかもしれません。その活動が、どちらを意図するのか、意識しながら計画してみることも意味があると思います。

ウ 外部専門家の話から問題に気づく

学校、教育関係者など様々な専門的立場で関わっている方々の話を研修会などで聞くなどして問題に気づくということです。年間行事の中で開催される研修で外部講師を招くことは、多くの更生保護女性会が行っていることと思います。しかし、問題に「気づく」ためには、毎月の例会に様々な人を招いて短い時間で話をしていただくなど、外部の方々の情報に日常的に触れる工夫が大切であると思います。

また、研修会も、会員全員が集まれる日に計画的に実施するということにこだわらず、とりあえず一つのテーマ(例えば子どもの携帯の問題)について情報を得たいから、集まれる人が集まるなど限られた人数で専門家を招いたり、話を聴きに出向くといった形で、機動的に行うことが大切なのではないでしょうか。

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(2)検討チームの立ち上げ

この運動に取り組む最初の段階から、更生保護女性会の中には、運動の企画、推進の具体案を検討する検討チームを何らかの形で設けることになるはずです。現在のところでは、会長以下会の中心的な役員により構成されたり、特定の専門部会がその役割を担うなどしているところが多いようです。検討チームは、更生保護女性会としての動き方、外部への働きかけの方法、学習会の持ち方、役割分担などを話し合って決める、その運動の中核となる存在です。また、検討だけではなくその後の作業の中心になっている場合も多いようです。
なお、常設の検討チームに可能なかぎり更生保護女性会以外の人の参加を得て役割を担ってもらうことも大切なことです。現在の会員構成では、「ほっとけない」と感じるようなたいへんな問題に取り組んでいくに当たって、会員だけでは苦手となる作業がどうしても出てくるはずです。情報を集める、活動を企画する、文章にとりまとめる、 アンケートを作る、電子メールで連絡をとる、関係機関と折衝するなど、数多い作業内容の中で、その更生保護女性会の会員には苦手な部分を、外部の賛同者に担ってもらうとことも躊躇すべきではないと思います。以下が一つの例となります。

日立市更生保護女性会では、「ほっとけない運動」として万引問題に取り組むため、犯罪予防部が検討チームとなった。検討チームは、はじめ、市内商店の実態調査を行う案を作り、役員会に諮って了承された。調査の実施は、全会員で行った。次のステップとして調査結果を基に関係者が集まり第1回の「万引防止連絡会議」を開催した。それ以降は、出席した学識経験者(犯罪学専攻)からも情報収集や資料作成などの面で検討チームへの協力が得られる見通しとなった。

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(3)ステップ2 問題を検証し、選択する

問題と気づいたら、そのことが実際にどの程度の広がりや根深さを持っているのかを検証する、という段階に進みます。この段階を経ることなしに活動を決めて着手してしまうと、さしてアピールする問題ではないと気付いても後戻りしづらくなりますから、慎重でなくてはなりません。
例えば「高校生の喫煙が目立つ」と気付いた時に、学校関係者などに事情を聞くなどして、問題がごく限られた範囲のことなのか、かなり広がっていたり、複雑な問題を持っているのかなどについて確かめます。

その検討は、調べた問題を「ほっとけない」問題として取り上げ、改善に向けて取り組んでいくかどうかを決める(選択する)ということにつながります。
この検証するということは、具体的には次のようなことを含みます(例示であり、すべてを行う必要があるということではありません)。

ア 気づいた問題を地区会で報告し合う

街に出て気づいたこと、外部の研究会等で学んだことなどを地区会の中で話し合い、情報交換をすることです。共通の情報がいくつも出て、問題の形が浮き上がったり、事情がわかったりするはずです。わからないことをどう明らかにしていくか、話し合うことにもなります。

イ 資料等で確認する

統計書などの資料により客観的なデータによって状況を捉えてみるということです。また具体的な事例を蓄積することも重要です。更生保護女性会の内外を問わず、他の人に取り組みの必要性を説明する時の基盤になるもので、活動が広がりのあるものにするためには特に重要です。次のような方法があります。

  1. 新聞の記事を切り抜いて集める
  2. 記事をインターネットで検索する
  3. 公式統計を閲覧する
ウ 専門機関等に確認する

関係機関に訪問して事情を聞いたり、関係の職員、学識経験者ほか関係者を研修の講師として招き、情報を得るということです。そのような接触は、情報を得るだけでなく、そのつながりによって連携の基盤をつくることになります。前述のように、研修会は、例年計画している全会員対象のものにとらわれず、その活動の担当の会員を決めて集まったり、集まれる会員だけ集まって開催する小規模なものでよく、情報を得るという目的から機動的に開催していくことが大切です。

問題を検証するため、研修等を実施した例
  • ひたちなか市更生保護女性の会では、更生保護施設被保護者の自立を支援する目標を立て、その困難さや必要なことなどに関し、更生保護施設の施 設長や保護観察所長を研修会に招いて事情を聴いた。また、他の更生保護施設での状況を把握するため、県外更生保護施設を2カ所訪問して役職員の方から説明を受けた。
  • 猿島地区更生保護女性会では、薬物問題の実態を知る目的で、茨城県薬務課から職員を講師に招き、「ほっとけない運動」を進める役員一同が研修を受けた。
エ 調査の活動を行う

例えば、関係者とともに街を歩いてみて地域安全マップをつくってみる、アンケート調査を行ってみるというように、更生保護女性会が関係機関の協力を得ながら独自に調査を実施するということです。
もっとも、そのような活動は従来も行われてきましたが、そのことだけで活動が終わってしまっていることも多かったのではないでしょうか。調査は大切なことですが、調査自体が目的なのではありません。それが、あくまでも活動の初めの段階であって、必要な取り組みはそこから始まるのであるという認識が大切です。

調査やアンケートを実施した例
  • 常総地区更生保護女性会では、“社会を明るくする運動”の広報活動を行う中で、市民の更生保護の大切に対する理解が高くないことを「ほっとけない」問題としてとりあげた。アンケート調査を、繰り返し行い、市民の考え方をとらえるとともに、アンケートの設問や解説などを通じて更生保護女性会の考え方や活動を伝えようとしている。
  • 日立地区更生保護女性会では、市内商店を対象に、万引被害と対応の実情について会員が二人一組になって聞き取り調査を行い、報告書にまとめた。

次に、検討結果を踏まえて「ほっとけない運動」の活動対象とするかどうかを決めます。話題として取り上げられた問題のすべてを選択することはできません。その中から本当に「ほっとけない」問題を選択しなくてはならず、活動として進めた場合の見通しを持ちながら慎重に選択しなければなりません。何を問題として選択するかということは、時間をかけて検討すべき重要なポイントです。

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(4)ステップ3 問題として外に訴える

検証の結果、「ほっとけない」ことであると選択した問題について、その深刻さや取り組む活動の必要性を関係団体や社会全体に訴えるプロセスです。なぜ「ほっとけない」のかを根拠をあげて示すことにより、取組みが、他の多くの団体を巻き込んだ大きな流れの中で進められる可能性が生まれてきます。

かりにそのようにはならなくとも、理解や協力を得るために重要なことです。
「ほっとけない」のだと誰もが納得するように説明するということが、「ほっとけない運動」の大切な一部分なのです。そしてまた、「ほっとけない」とよく説明をすることは、更生保護女性会の内部、すなわち会員一人ひとりの取組み意欲を高め、会として一致して活動を進めていく上でも大切なことです。
このステップの具体的な方法を以下に示しました。

ア 問題の概要(輪郭)をまとめ、資料化する  

何が問題となっているかを端的にデータ、事例を挙げて提示することです。そしてその背景に言及することでどのような対策が必要であるかが見えてくると思います。問題の概要は、資料化し、関係者にわかりやすく伝達できるようにします。

例 万引きで補導される青少年の増加が「ほっとけない」

日立市更生保護女性会

茨城県内の平成22年の刑法犯検挙人員は、3、353人で、そのうち、万引事犯は、1、629人であり、昨年より200人減少したものの全体の48.6パーセントを占める。昨年より構成比としては高まった。刑法犯全体としては減少しているが、万引はそれほどには減っていないということである。 年齢別に見ると、少年の占める割合が高まっているが、中でも触法少年の増加が39パーセント増と大幅である。14歳から16歳の補導人員も増加しており、低年齢化が進んでいるといえる。 一方、当会が市内の商店を調査したところによると、万引きを発見した際の対応も商店によってまちまちであり、また、連絡をとった家族の態度も子どたちの反省を促すことになっておらず、結局、万引きを繰り返してしまう子どもたちも多い。 犯罪事件の中の半数近くを万引きが占め、その中で小学生など年少の子どもたちの割合が増加して取り調べを受ける事態をどう受け止めるべきだろうか。学校等において「万引きをしない、させない」の教育や親への働きかけを進めるとともに、商店会などが一致した対応をとって万引きへの対処と、その後の子どもたちへの指導の在り方を検討する必要がある。

イ「ほっとけない」問題として関係機関に働きかけ、対応への動機付けを喚起する  

提示した問題、作成した資料を、広めるということです。協議会の席上で資料を配付し、問題を訴える、広報ビラにして配布する、報告書、要望・提言書などとして行政機関に提出する、報道機関による取り上げを促す、などして、関係機関や社会の注意を喚起し、取組みへの理解と協力を促します。

そのほか、以下に述べる連絡会の開催も、問題についての多様な機関の注意を喚起する一つの方法であると思います。

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(5)連絡会の開催

「ほっとけない」問題について、他団体との連携が欠かせない場合には、関係団体の間で具体的に問題の現状や対応の実情についての情報を共有するために「○○市○○問題を考える会」「○○地区○○問題研究会」「○○問題連絡協議会」などの名称の連絡会を開催することができます。

連絡会の開催を主催して、他の団体に出席を呼びかけることは、更生保護女性会としては、必ずしも慣れてはいないかもしれません。けれども「ほっとけない」問題の実情を知り得た範囲で明確にし、目的を明確に示すことで、公的機関からも民間団体からも出席が得られるはずですから、身近な団体から徐々に広げて呼びかけてみてください。更生保護女性会に加えて保護観察所が主催者になることで、出席を求めやすくなるということであれば、保護観察所に相談をしてください。

連絡会は、具体的な活動の推進と並行して行われるものですから、定期であれ不定期であれ、年間に必要な回数だけ継続して行うということが原則です。年1回では、開催の度に人事異動で出席者が変わり、また、間が空き過ぎて連続性のある会議にはなりません。
「ほっとけない運動」での連絡会は、出席者がその「ほっとけない」問題を解決していくという目的を持っています。そのため議事進行では、各回の会議が終わるまでに目的の解決につながる活動の提案を参加者から数多く引き出し、その中から実際に取り組む活動について、会全体で合意できるようにまとめていくことが必要です。このことをしっかり意識して進行しないと、出席者がそれぞれ実情を述べて終わる方向性のない会議になってしまう可能性があります。
連絡会でもう一つ大切なことは、会議と会議の間の期間にできる調整を進めていくということです。前回会議で提示された課題と対策を踏まえ、資料を集めたり、出席者と個別の打合せを行って次回会議に備えます。次の会議で、連絡会としての具体的な動きがどこまで決まるかは、会議と会議の間の期間での調整や準備にかかっているのです。

連絡会を開催した例
  • 土浦市更生保護女性会は、荒れる中学校の背景に、すさんだ状況に置かれた青少年やその家族への立ち直り支援について地域の各機関が集まって対策を話し合う連絡会を立ち上げ、参加者の提案で「土浦市青少年を考える会」としてほぼ毎月開催している。出席団体は、更生保護女性会のほか、保護司会、保護観察所、警察署、自立援助ホーム、民生委員協議会、市青少年課、青少年指導員協議会、中学校などである。話し合いが、地域としての支援体制を整えることにつながっている。
  • 日立市更生保護女性会は、万引問題に取り組む中で、商店の実態調査を行った後、その内容を踏まえ、連絡会「万引き問題を考える会」の開催を関係団体に呼びかけて行った。会議には、日立地区保護司会、保護観察所、日立市青少年育成推進会議、青少年相談員連絡協議会、地元新聞社記者、学識経験者(犯罪社会学専攻)、商店会長、更生保護女性会などが出席した。
(6)ステップ4 問題改善の活動を進める

明らかにして、訴えた「ほっとけない」問題について、対応のための活動を決めて実施する段階です。
行政の対応を求める、相談活動や街頭パトロールを実施するなど、問題の中身によって、様々なことが考えられます。どのような活動を行うかは、更生保護女性会の検討チームで考え、また、関係団体が集まった連絡会で話し合って決めます。以下に活動の考え方と例を示します。

(活動を行う上での考え方)

「ほっとけない運動」では、「ほっとけない」問題の解決を図っていくという目的を第一に考えます。具体的な個々の活動を検討したり、行ったりする場合も同じことです。以下の点を参考にしてください。

ア 活動は手段であり、目的ではない

活動は、目標(問題の解決)を達するための手段であって、それを実施すること自体が目的ではありません。できる活動を何か一つやればよいということではなく、目標を達成するために、できることをいろいろに組み合わせていくことになると考える必要があります。一つの活動を進めるのもたいへんですが、その活動を通して問題が改善されているのだろうか、問題の改善につながる活動にするにはどうすればよいだろうかと考えて進めることはさらに骨の折れることです。しかし、そのような意識を持って活動を行うことで得られる充実感もまた格別であり、また、他の団体の共感も得て連携が得られやすくなるなどのやりやすさもあります。

イ 活動を実施し、それを振り返って検討を繰り返す流れになる

一つの活動を行ってみると、目標である課題の改善という点に照らして足りない、うまくいかないという点がいくつか出てきます。それを検討チーム、そして連絡会で話し合い、次の活動へと進んでいきます。運動はその積み重ねであるということです。

ウ 更生保護女性会組織の連携も視野に入れる

一つの地区会よりも、複数の更生保護女性会が合同で行った方がよいと判断する場合もあると思います。近隣の更生保護女性会、又は同じテーマで取り組む更生保護女性会が連絡を取り合うことによって、効果的に進めていくことができます。

県更生保護女性連盟も一定の役割を果たします。地区会の取組みであっても、県全体の盛り上がりの中で進めることがより効果的である場合に調整機能を果たしたりということです。県連盟の事業として行い、各地区更生保護女性会の参加を求める場合もあると思います。

(活動の例)
以下、個々の活動の例を領域別に示します。このほかにも限りない形態の活動が考えられるところです。これらの活動のいくつがが組み合わさって、運動が推進されることになります。つまり、個々の活動は、目的(課題の解決)のための手段であって、活動を行うことそれ自体が目的ではないのです。


(1)施設入所者支援の活動
 ア  更生保護施設、児童自立援助ホームなどに食事を提供する。入所者との食事会を開催する。
   料理教室を開催する
 イ  衣料、家具、家電製品の中古品の持ち寄り会を開催し、希望する入所者に差し上げる
 ウ  入所者との話し合いの会を開く。新生活個人相談の場を持つ。講習会を開催する
 エ  パソコン、書道、絵手紙の教室の開催
 オ  生活のしおり(相談先案内等)の作成、贈呈

(2)街頭、野外での青少年育成活動
 ア  個々の会員の日常での青少年への一声活動
 イ  街頭補導、声かけ活動
 ウ  違反行為や青少年を害する行為、環境などを通報する活動
 エ  子どもたちとともに地域安全マップの作成
 オ  青少年の社会参加活動

(3)学校での活動
 ア  非行防止、被害防止の啓発活動。講演会、人形劇、紙芝居、ビデオ上映などによる。
    内容は、万引き防止、薬物乱用防止、不審者からの被害防止等
 イ  生徒とのテーマを決めての話し合い
 ウ  登下校時の見守り活動。あいさつ運動
 エ  生徒への作文やポスター、標語などの作成依頼
 オ  道徳の時間などの外部講師としての授業

(4)間接的に立ち直ろうとする人を助ける活動
  (直接支援活動を行う団体に協力する形で青少年などを間接的に支援する活動)
 ア  ダルクなどの自助組織に対する支援
 イ  非行や薬物乱用がある人の家族の会の設立・運営に対する支援(広報を含む)
 ウ  BBS会員の募集支援と活動支援を通じての青少年のサポートの促進
 エ  チャイルドラインなどの相談窓口についての情報を県下への普及を促す活動

(5)商店等に要請を行う活動
 ア  万引等の青少年への指導についての要請
 イ  犯罪予防の啓発活動への協力要請(ポスター掲示等)
 ウ  青少年に有害な出版物等の販売の制限についての要請

(6)報道機関・インターネット
 ア  行事開催等の記事掲載を依頼する活動
 イ  問題あるインターネットサイトについて通報する活動
 ウ  新聞やテレビ番組に投書することを通じて啓発等を行う活動
 エ  更生保護女性会のホームページを作り、更生保護についての情報の提供を行う活動

(7)広報・啓発のための活動
 ア  パネルを作成する
 イ  資料展示を行う
 ウ  ミニ集会からフォーラムに至る各種の集まりを開催して行う広報活動
 エ  街頭広報活動
 オ  アンケートによる広報活動
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3 終わりに

各地区の取組の様子をみると「ほっとけない運動」は、これまでの活動の中で、必要と感じながらも踏み込みきれないでいた問題により果敢に踏み込んでいく力を与えているようです。ただ、そのようなことは、更生保護女性会がやることなのだろうかという声も、ここまでの経過の中でしばしば聞かれました。あらゆる分野で制度が整った現代社会では、更生保護女性会が行わなくとも、もっと個々の問題に焦点を合わせた専門の機関や部署が必ず存在します。しかし、それでもなおかつ「ほっとけない」状態にあるのですから、現状を検討し、声をあげることはやはり必要であり、それを誰かがしなくてはならないのだと思います。

そのような意味でボランティア活動の原点に立ち帰る運動とも言える「ほっとけない運動」は、またある意味では更生保護女性会の現状を新しく前進させる試みの運動です。どう活動として展開するかということを急がず、運動の趣旨に沿って勉強会を重ねることに十分な時間を費やしていただきたいと思います。そして、行き詰ったり、疑問が生じたときは、気軽に県連盟の「ほっとけない運動」推進委員会や保護観察所などの関係機関に連絡し、会の実情も話しながら相談をしてほしいと思います。

各地区における活動が、この運動を刺激として、よりいっそういきいきとしたものになることを念願しています。


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